観音寺城 (19)

 

石垣 (1) 悉皆調査

悉皆調査

ようやく、石垣編に入っていきます。

観音寺城では、2008年から4か年をかけて石垣の悉皆(しっかい)調査が行われ、2012年3月に報告書が刊行されています。「悉皆」とは聞き慣れない用語ですが、すべてとか残らずといった意味です。
地道な調査かもしれませんが、自然災害で各地の石垣が崩落している現状を見ると、必要不可欠なことだと思います。実際は、悉皆調査にプラス個別石垣の測量調査も必要かと思いますが。
城歩きにとっても、ほんとにありがたい資料です。

『史跡観音寺城跡石垣基礎調査報告書 悉皆調査および伝本丸跡周辺の発掘調査』滋賀県教育委員会 2012年

調査の結果確認した石垣は、観音寺城で522か所、桑実寺周辺で276か所、鳥打山山麓の上豊浦地区で150か所、計948か所に及びます(「か所」といっても「面」でのカウント)。
ただ、史跡範囲に限定した調査のため、伝御屋形跡から石寺地区については含まれていません。

2017年11月に、久々に観音寺城を歩いたのですが、その時に見付けられなかった石垣があったことから、いろいろ探してこの報告書にたどり着きました。その後2019年からは、コロナ禍もありましたが、これを手引きに年1~2回歩いています、

まだ歩かれていない方の参考になると思い、ダウンロードPDF を用意しました。

ダウンロード
全域図
中間図
合成図
詳細図1
詳細図2
一覧

おおむねA4判にしましたが、本来のサイズではありません。中間図は4p、詳細図1(中心部)は8p、詳細図2(周辺部)は12p、一覧(石垣カルテ)は19pです。合成図は、中心部の詳細図を当方で貼り合わせたものです。いずれも画像なので、テキストは認識しません。

ひとりごと

城歩きの醍醐味としては、未知の城をさまよい歩くのが好きな方も多いと思います。戦争遺跡、とくに昭和期のものはそもそも図面がないことが多く、おのずとそんな歩き方になってしまうのですが、私は図面好き(見るのも作成するのも)なので、どちらかといえば、図面と対照して納得しながら歩きたい派です。あと、地元であればともかく、遠征の場合、あまりやモヤモヤ感を残したくないということもあります。

遠征の前には、かならずwebサイト『全国遺跡報告総覧 』で報告書の有無を確認します。
ご存じの方も多いと思いますが、これは、国立文化財機構奈良文化財研究所が運営しているwebサイトで、全国の地方公共団体、大学などを発行機関とする遺跡発掘調査報告書のPDFと抄録が公開されています。
その趣旨として「貴重な学術資料でありながら、流通範囲が限られ一般に利用しづらい報告書をインターネット上で公開することで、必要とする人が誰でも手軽に調査・研究や教育に利用できる環境の構築を目指しています」とのこと。

しかし、残念ながら滋賀県はその趣旨に賛同できないようで、滋賀県(滋賀県教育委員会・滋賀県埋蔵文化財センター・(公財)滋賀県文化財保護協会)は、2014年に1990年以前に刊行された報告書の一部のPDF化を行ったようですが、その後は新刊本もまったく。『史跡観音寺城跡石垣基礎調査報告書』も当然ありません。
『全国遺跡報告総覧』の発行機関一覧(都道府県別)を見ると、各機関の取り組み姿勢がよく分かります。滋賀県内市町村では、彦根市と米原市がPDF化に積極的ですが、他は県と歩調を合わせているのかのようです。彦根市と米原市のがんばりもむなしく、全国的にもPDF化率のワーストを争っています。意外にも東京都がNo.1みたいですが。

文化財業界の実情は不明ですが、一般的には、現在PDF入稿はスタンダードで、そうでなくても印刷に至る工程のなかでPDFは生成されるので、PDFにかかわる経費増はないはずです。というか、少部数のペーパー報告書に多額の経費をかけていることがおかしいのですが。

私の住む県立図書館蔵書で「滋賀県教育委員会」を検索するとわずか約70件。多分報告書以外も含んでいます。『全国遺跡報告総覧』によると滋賀県教育委員会発行は1385件。ということで、県立図書館にも送付されていません。

地元図書館でも他館からの取り寄せは可能ですが、県外図書館からとなると1か月待ちはフツー。
なので、大体の場合、遠征時に半日時間を削ってご当地の図書館に行ったりしています。あとは国立国会図書館の遠隔複写サービスを利用していますが、報告書の場合、最初に目次(本文・挿図・図版)のコピーを依頼し、それを見てもう一度頼まなければなりませんし、もちろん有料+送料。範囲も当然半分以下です。先年、某『史跡●●城総合調査報告書』の遠隔複写サービスを依頼したのですが、ありがたいことに(これは本音)、赤色立体地図を多量に使用していて(カラーコピー扱い)、ビックリする額の請求書を頂きました。PDF版があれば瞬時で無料なのですが。

ググっていたところ、『埋蔵文化財保護行政におけるデジタル技術の導入について2 』(報告) 平成29年9月25日 埋蔵文化財発掘調査体制等の整備充実に関する調査研究委員会 文化庁 なる文書を見付けました。
ここには、埋蔵文化財は国民共有の財産であり、「発掘調査報告書は広く公開されて国民が共有し、活用できるような措置を講じる必要がある」とし、デジタルデータによる発掘調査報告書についてのあるべき方向性についてまとめてありました。報告書の公開は大大大々原則です。広く公開するということはその手段を含めて必要な措置を講じる必要があるということだと思います。

滋賀県についてもう一言悪口を言わせてもらうと、滋賀県の外郭団体になるのでしょうか、公益財団法人滋賀県文化財保護協会では、ずいぶん前から個人に業績に関わるような『紀要』の論文についてPDFを公開しています。それはそれでお世話になっていますが、なおのこと報告書については・・・(自粛)。

ということで、それほど高解像度ではありませんが、石垣の分布図と一覧のPDFを当方で用意してみました。ちなみに、このサイトは収益化していませんのであしからず。

観音寺城(20)に続きます。次回は矢穴。

2024年9月22日投稿


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