矢穴の話 (6) (最終回)

 

石垣の起源をさぐる series 1

岩根山・菩提寺山周辺の石造物

近江の石仏・石塔 (1)
滋賀県湖南市
2023年4月

「野洲花崗岩」体の岩根山(十二坊)・菩提寺山周辺には、多くの磨崖仏・石造物、そして石切場もあります。

廃少菩提寺

少菩提寺跡(しょうぼだいじあと)(滋賀県湖南市菩提寺)は、菩提寺山(363.3m)の東麓にあります。
731年(天平3)に良弁(ろうべん)によって創建された大寺院で、栗東市の「大菩提寺」(現金勝寺)に対して「少菩提寺」と称していました。
法相宗の興福寺別院としてスタートしますが、そこはやはり「近江」。延暦寺の影響下に置かれ天台宗に改宗します。
「廃」は廃寺の意味で、1570年(元亀元年)に信長ないし六角氏の敗残兵に全山焼き払われてしまったそうです。
「廃少菩提寺石多宝塔および石仏」として国史跡、さらに多宝塔単独で国重要文化財に指定されています。

廃少菩提寺三体地蔵石仏
【廃少菩提寺三体地蔵石仏】

三体地蔵石仏です。中央の地蔵石仏が古く鎌倉時代後期の作。両脇の地蔵は室町時代の作で、脇侍にように並んでいます。花崗岩製で、中尊の高さ は158cmです。
船形光背を背景として、中尊は右手に短い錫杖、左手に宝珠、右地蔵は右手に蕾の蓮華、左手に宝珠、左地蔵は、両手で合掌しています。

廃少菩提寺三体地蔵石仏矢穴
【廃少菩提寺三体地蔵石仏 矢穴】

右手の地蔵の裏面に「矢穴」があります。半円形で、矢穴口長は12cm。典型的な先Aタイプです。

廃少菩提寺石造多宝塔
【廃少菩提寺石造多宝塔】

矢穴とは関係ありませんが、国指定重要文化財の多宝塔です。
鎌倉時代中期の仁治2年(1241年)の刻銘があります。花崗岩製で高さは4.54mです。
二層部の屋根に特徴があり、二重の錣葺(しころぶき)式屋根で、屋根下は斗栱(ときょう)を表現しています。
初層軸部北面に「仁治二年辛丑七日」、「願主僧良善」、「施主日置氏(へきし)女(むすめ)」と刻まれています。
石造多宝塔の周りの小石仏(石龕仏)は16世紀代のものです。次回紹介します。

菩提寺山
【廃少菩提寺 現地案内図】

現地の案内板には、前回の岩瀬谷とは別の矢穴石が。行こうかどうが迷ったのですが、この時は17時近かったのでさすがに断念しました。

近くの「和田神社駐車場」(看板あり)を利用させてもらいました。mapの位置です。駐車場といっても、ぎりぎり2台のスペースしかありません。

善水寺

善水寺(ぜんすいじ)(滋賀県湖南市岩根)は天台宗の寺院で、山号は岩根山、本尊は薬師如来です。
常楽寺、長寿寺とともに湖南三山のひとつに数えられているそうです。

善水寺本堂
【善水寺本堂】

南北朝時代の建立で国宝です。近世の地誌には貞治3年(1364年)または同5年(1366年)の建立とあるようです。

善水寺砂かけ地蔵
善水寺「砂かけ地蔵」】
善水寺砂かけ地蔵矢穴01
善水寺「砂かけ地蔵」矢穴
善水寺砂かけ地蔵矢穴02
善水寺「砂かけ地蔵」矢穴

名称の由来は不明です。地蔵堂の北側にあります。背面に「矢穴」があります。地蔵尊の年代は不明ですが、矢穴は先Aタイプ、中世であることは間違いないと思います。

善水寺不動明王
善水寺不動明王

観音堂の東側にある巨大な一枚岩の北面の高いところに彫られています。像の右に室町時代「文亀3年(1503年)」の刻銘があります。廃少菩提寺跡や善水寺の周辺には、まだまだ磨崖仏、石造物がありますが、今回はあまり歩けませんでした。

周辺地形図
【岩根山(十二坊)・菩提寺山周辺地形図】
背景図はカシミール3Dで作成。

善水寺には、大型バスも止めることができる駐車場があります。
南東側から入るルートは道幅が狭いので、北東側から迂回した方が良いと思います。
本堂周辺は、拝観料大人600円が必要です。法要などがなければ、堂内の見学もできます。

「矢穴の話」は継続案件ですが、概説編は一端終わりにします。

参考文献
・中井均『戦国の城と石垣』高志書院 2022年


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